東京大学制作展は、テクノロジーとアートの融合を探求する展覧会です。情報・メディアアート分野の教員による監修のもと、東京大学大学院情報学環・学際情報学府の学生を中心に、さまざまな専門分野を持つ学生たちが企画・制作・運営を手がけています。
東京大学制作展2025のコンセプトは「あること□ないこと」です。
世間では「有る事無い事」という言葉に象徴されるように、日々さまざまな情報が飛び交っています。そして、私たちは往々にして「あること」と「ないこと」で世界をくっきり分けて捉えがちです。「これは正しくて、あれは間違い。」「これは現実であり、あれは現実ではない。」—そうして固定化された認識に、無意識のうちに囚われているのかもしれません。
しかし、世界はそんな単純に見てよいものでしょうか。私たちが生きる日常は、むしろ「あること」と「ないこと」が揺らぎ合う事象の連続です。
例えば、ある感覚は、それを表す言葉を与えられて初めて立ち現れます。日本では誰もが知る「肩こり」という身体感覚。あるいは、水面で光がきらめく様子を指す韓国語の「ユンスル(윤슬)」。その言葉を知る前と後で、私たちの世界の見え方は変わります。それまで「なかった」はずの繊細な感覚や風景が、名前を得た瞬間にくっきりと「ある」ものとして立ち現れるのです。
確かに「ある」と思っていたことが揺らいだり、「ない」と思っていたものにふと気づかされたり。もしかすると、「あること」と「ないこと」という概念そのものが、常に行き来し、時には混じり合い、融和するものなのかもしれません。
今回のテーマは、その関係性の多様さと自由さに焦点を当てています。コンセプトの「□(空白)」は、「あること」と「ないこと」の間に広がる可能性を示します。会場に並ぶ各作品は、制作者それぞれの視点から「あること」と「ないこと」の間に広がる多様で自由な関係性をその空白の中に描き出しています。ご来場の皆様にも、ぜひご自身の自由な解釈のもと、この「□」を通して「あること」と「ないこと」の関係性に思いを巡らせていただければ幸いです。
この展示会が、皆様が世界を新たな視点で見直すファインダーのような存在となればと願っています。皆様のご来場を、心よりお待ちしております。
制作展2025 プロデューサー
東京大学情報理工学系研究科 知能機械情報コース
修士1年