東京大学制作展は、テクノロジーとアートの融合を探求する展覧会です。情報・メディアアート分野の教員による監修のもと、東京大学大学院情報学環・学際情報学府の学生を中心に、さまざまな専門分野を持つ学生たちが企画・制作・運営を手がけています。今夏開催する制作展Beginningは、11月の本展示に先立つプレ展示で、コンセプトは「あることないこと」。存在への問いをテーマに、異なる専門性を持つ学生たちが協働して制作した、多彩で個性的な作品群が並びます。
今回の展示のコンセプトは、「あることないこと」。 この言葉に触れるとき、私はえもいわれぬ安堵感と、少しのためらいを覚えるのです。 「あることないこと」と括られたものは、どれが「ある」ことで、どれが「ない」ことだったのでしょうか。 何を「ある」とし、何を「ない」とすればよいのでしょうか。 それは人によって、立場によって、場所によって、時間によって、簡単に変わってしまうものではないでしょうか。 そもそも、「ある」ことと「ない」ことは、互いに否定の関係なのでしょうか――。 私たちが何かを「ある」「ない」と断ずることの、なんと難しいこと。 それを分け得ないままにしておける猶予と、曖昧ゆえのもどかしさ。 「あることないこと」という言葉が持つ、いわばこの判断の保留のような性質に、私は安堵と躊躇のせめぎ合うような心地がするのかもしれません。 そんな言葉が、コンセプトとしてこの展示を包んでいます。 この形容には、きっとほかのプロデューサーも、展示に関わる学生も、そしてご来場いただくみなさまも、それぞれ違った所感があることでしょう。 「ある」と「ない」という対立は、一見すると実にわかりやすくて単純です。 けれども私たちは、例えばその境目や外側について、ときに主観を超えたところまで、考えてしまうのではないでしょうか。 「ある」とも「ない」とも知らず触れる。 それぞれの「あることないこと」を通して見る。 どちらも、この展示と出会う一つのかたちなのだと感じています。 みなさまのご来場を、心よりお待ちしております。
東京大学制作展2025 プロデューサー 東京大学大学院 学際情報学府 修士課程1年 筧研究室 戸田結梨香