
あること ↔ ないこと
触れることと記憶、その往還
ぬいぐるみには記憶が宿っている ──そう感じたことはないだろうか。 撫でられて癖のついた毛並み、柔らかくなった関節、手に馴染んだ感触。 それらは誰かと過ごした時間の痕跡であり、思い出の象徴である。 そうした思い出は、触れることによって呼び起こされる「ぬいぐるみの記憶」として、確かにそこに存在する。本作品は、その記憶の在りようを視覚的・身体的に表現しようと試みたものである。
本作品では、来場者がぬいぐるみに触れると、ぬいぐるみが今まで人と触れ合ってきた記憶が映像として壁面に浮かび上がる。来場者は、ぬいぐるみがこれまで過ごしてきた時間に思いを馳せたり、自らの過去の記憶を重ね合わせたりしながら、それぞれ異なる形でこのぬいぐるみと関係を結んでいく。そして彼らが自身の手で触れたその瞬間もまた、新たな記憶としてぬいぐるみの身体に刻まれる。